配偶者ビザや国際結婚ビザといわれるものは、出入国管理及び難民認定法別表第2に定める、日本に在留する外国籍の方が日本人や永住者の配偶者として滞在するための「配偶者」の在留資格です。配偶者ビザの更新の有無や更新後の期間は、配偶者との婚姻の継続性や安定性、生計を共にする度合いなどを総合的に見て決定されます。配偶者ビザの更新にあたっては、婚姻関係が続いており同居していることが前提となりますので、別居している場合は、同居している場合と比べて審査が厳しくなります。夫婦仲が悪くなり別居しているような場合であれば配偶者ビザの更新は認められません。このため、夫婦関係があるが同居していない場合は、申請の際にその特別な事情を証拠を示してはっきりと説明することが必要となります。別居していても、会社の都合や里帰り出産など特別な事情がある場合は配偶者ビザの更新が認められる場合があります。ここでは特に別居中の更新手続きの留意点を中心に説明します。
別居状態の時に配偶者ビザの更新を申請する場合は、婚姻状態が継続していることを証明するために、通常の申請書類に加えて次のような書類を追加で提出することが必要になります。
・別居の理由と経緯を説明した書類
・別居の理由を証明する書類・・・転勤辞令や在学証明書など
・日本人配偶者から経済的支援を受けていることを示す書類・・・送金記録や通信記録など
別居をする場合は、原則として住民票を移住先に変更する必要があります。別居中にもかかわらず、住民票を移さず、同居していることにして申請を行ったことが発覚した場合、虚偽申請と判断されます。また、短期の場合や住民票変更の手続き忘れなどで、住民票上の住所と実際の居住地が異なる場合も正直に申告する必要があります。実態調査などで別居の事実が発覚した場合も虚偽申請と判断され、次の更新が許可されないおそれがあります。
別居をしている場合でも、別居が必要なやむを得ない事情があるなど、合理性が認められれば配偶者ビザの許可が下りる可能性があります。別居状態での配偶者ビザ更新申請の審査で重視されるポイントは、
①別居に社会通念上理解できる合理性があるか、
②別居中であっても、夫婦としての婚姻関係が継続しているか、
③別居状態がいつまで続くのか、あるいは将来の同居計画はあるか、
の3点であり、これを踏まえて、以下に典型的なケースに応じた申請のポイントや生活上の留意事項について説明します。
1 仕事や転勤により別居しているケース
配偶者の一方が会社の転勤や海外赴任などで単身赴任となる場合で、最も多いのはこのケースでしょう。この場合、単身赴任が会社の制度としてあり、会社命令で転勤が避けられないものであること、転勤期間、すなわち将来同居できるようになる時期が明確であること、夫婦間で定期的な連絡や面会が行われていることなどが説明できれば、審査を通りやすいと考えられます。この場合、会社から転勤辞令が出ていることを示すだけではなく、残る配偶者が仕事の事情などで転勤先についていけない理由をはっきり説明することが重要です。また、単身赴任期間中の夫婦間でのやり取りを定期的にメールやS N Sなどで行い、記録を残しておくことも有効です。このほか、お互いの居住地に行き来してしていることの証拠として、往復の旅券や交通系電子マネーの記録を提出するなども有効と考えられます。
2 病気療養等による入院や、出産や介護などで里帰りするケース
体調不良、怪我や出産のため配偶者が長期間入院せざるを得ない場合や、出産のため里帰りする場合も、合理的な理由として認められることが多いです。これらのケースでは、病院の診断書などの証明書類を準備しておく必要があります。また、親など親族の介護のため長期間里帰りする場合も更新が認められることがあります。ただし、親の介護などの理由で3ヶ月を超えて長期にわたり別居が続くような場合には、結婚の実態が疑われかねません。このため、介護が長期にわたる場合には、親の要介護の程度や他に介護者がいないなどの事情を説明できるようにしておくことが必須です。また、家族全員で近くに引っ越しをして面倒を見るという選択をしていない理由も合わせて説明を行った方が良いでしょう。これに加え、転勤の場合と同様、別居中の夫婦間のやりとりを残したり、配偶者への経済的支援の状況を送金履歴などで説明できるようにしておくことも有効です。
3 学業を続けるための別居のケース
教育機関での学業を続けるための別居も合理的な理由として認められることがあります。特に、生計を担う配偶者が将来的な結婚生活の基盤を準備するために、専門的な技術や知識を取得する目的で別居して学業を継続する必要があることは合理的理由として認められやすいと言えます。地方の大学に通う外国人留学生が、東京の会社に正社員として勤める日本人会社員と結婚しており、外国人留学生が大学を卒業をして上京するまでの間やむを得ず別居をしていた場合などで更新が認められたケースがあります。この場合も、単に在学証明書等を提出するだけではなく、別居中の夫婦間のやりとりを残したり、配偶者への経済的支援の状況を送金履歴などで説明できるようにしておくことが大切です。
4 離婚協議のために別居しているケース
離婚協議中の場合は別居しているケースが多いと思われますが、離婚協議がまとまらず長引いたり、離婚調停や裁判になってさらに別居期間が長期化することもあります。このような離婚の協議中や、調停中、裁判中に在留期限が来てしまった場合には、入国管理局に離婚の協議中であることを説明し、調停継続証明書や裁判の事件係属証明書などを提出することで更新が認められるのが一般的です。離婚裁判が終われば、帰国するか他のビザに変更する必要がありますが、離婚裁判が続く限りは配偶者ビザの更新は可能となります。ただし、その場合でも、夫婦関係が継続している実態が必要ですので、婚姻にかかる費用の送金記録などを併せて提出する必要があります。離婚裁判の継続中などの場合には、6ヶ月など短い在留期間での更新となることが多いです。
なお、離婚が成立したからといって、直ちに在留期間の更新が却下されるわけではなく、6ヶ月程度の更新が認められるのが通常ですので、その間に出国の準備をしたり、日本に留りたい場合には再婚による配偶者ビザ申請を準備したり、あるいは就業など他の理由での在留許可申請を準備をするなどの対応を考えることになります。
最後に
別居に関する裁判例では、別居期間中における婚姻関係の継続性を証明する証拠として夫婦間の通信の記録や交通の記録などのほか、SNSへの投稿の状況や家族ぐるみでの付き合いを示す写真、別居時に持っていた生活用品の量、別居していた居所の鍵の所持など様々な要素が総合的に判断の材料とされていますので、配偶者ビザの更新のためには、別居期間中における夫婦関係の継続が証拠として残るよう、常に意識しながら生活することが肝要と言えます。また、特に別居期間中の配偶者ビザの更新にはさまざまな資料を用意する必要がありますので、弁護士や行政書士などの専門家に依頼し、あるいは専門家の意見を聞きながら準備を進めることが望ましいでしょう。